アフガニスタンを5-0で破った一戦において、存在感を示したのがトップ下で起用された清武弘嗣だった。逆に、これまで日本代表のトップ下を務めてきた香川真司は途中出場であるとはいえリズムに乗り切れず。これまでもアジアの小国相手に低調なプレーに終始することも少なくはなかっただけに、清武への期待は大きく高まっている。(文:元川悦子)
チーム全体から勝ち取った信頼
イングランド・プレミアリーグ優勝争いの原動力になっている岡崎慎司(レスター)の技あり弾に始まり、清武弘嗣(ハノーファー)、オウンゴール、吉田麻也(サウサンプトン)、金崎夢生(鹿島)の5ゴールでアフガニスタンを一蹴した日本代表。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が収穫を強調した一戦から一夜明けた25日昼、彼らは埼玉県内で調整を実施。右足打撲の小林悠(川崎)を除く23人が参加し、前日の先発フィールドプレーヤー10人はクールダウンに努めた。
29日のシリア戦(埼玉)出場が見込まれる本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)ら控え組は5対5やクロス&シュートの練習などをみっちり消化した。
改めて前日のアフガニスタン戦を振り返ると、自身の代表通算2点目を含め、4点に絡んだ清武の一挙手一投足が大いに光った。長友佑都(インテル)が「個人的にはキヨがすごくよかったと思う。やっぱり彼がいたからリズムが作れていたと思うし、前の2人(岡崎と金崎)が生きたのもキヨの技術、パスの精度があったから。それがかなり利いていたように僕は思った」と絶賛。
さらにハノーファーのチームメートである酒井宏樹も「キヨ君は間違いなくハノーファーの時より楽しそうだった。すごく周りと合ってる気がしたので」と前向きに語る。
2トップの一角を占めた岡崎も「夢生を含めて3人とも感覚的にサッカーができていた」と連係面がスムーズに行ったことを強調するほど、彼はチーム全体からの信頼を勝ち取ることに成功した。
「純粋な司令塔的トップ下」を求めるなら…
もちろんシュート数27対1、ボール支配率70.9%対29.1%という実力差のある相手だけに、この日1試合のパフォーマンスで全てを評価することはできない。が、それを差し引いても今回の清武の落ち着きあるゲームメーク、パスさばき、左や前へ流れながら他の選手を中に入れる動きなどは、チームの重要な潤滑油になっていた。
後半20分に香川が入ってからは清武が左に移動し、香川がトップ下に入ったが、それまでの時間帯に比べると真ん中でタメや緩急の変化が減った印象だった。吉田のゴールをお膳立てしたCKを含め、リスタートの精度の高さを考えても、「純粋な司令塔的トップ下」を求めるなら、清武を選択すべきではないか。そういう見方が強まるのも自然の流れと言っていい。
「真司は時間があれだけ(25分間)しかなかったし、得点も入ってたし、まだまだこれからじゃないですか。真司もモチベーションが非常に高いんで期待しています。キヨとの競争については、もう1人くらい若い選手が出てきてほしいですけどね」と日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長は香川をフォローしていたが、香川が本調子でないのは事実。アフガニスタン戦でもリズムに乗り切れていない様子だった。
2011年にエースンバー10を背負ってからというもの、本当に彼が持てる潜在能力を出し切った試合は、2013年コンフェデレーションズカップ・イタリア戦(レシフェ)など数少ない試合しかない。そういう好不調の波の大きさを踏まえると、シリア戦でどちらをトップ下に据えるかは、判断が分かれるところだろう。
2次予選首位通過、そして最終予選へのベストピースは?
清武に不安要素があるとすれば、ケガのリスクを抱えていること。昨年3月のハリルホジッチ体制発足後、彼は初戦となったチュニジア戦(大分)先発出場の後、6月と11月の代表合宿中に右足第5中足骨骨折の重傷を負い、2度の長期離脱を強いられた。
そういう事情もあって、ハリルホジッチ監督も協会も2試合連続先発させるのは苦慮する部分があるはずだ。残り7試合に奇跡のブンデスリーガ1部残留を賭けることになるハノーファーにとっても彼は絶対に必要な戦力だ。山口蛍も「チームには欠かせない戦力なんで」とコメントしていたが、ここで再びケガをするようなことだけは避けなければならない。
とはいえ、清武にしてみれば主力級の本田や宇佐美貴史(G大阪)らとともにプレーする数少ない貴重なチャンス。香川に対しては常日頃から「やっぱりドルトムントとハノーファーではレベルの差もある。ドルトムントで競っている相手は一流の選手ばかりで、ハノーファーの選手と比べると差はある。そこは比べられないと思う」とリスペクトを欠かさないが、いい流れが来ているこの波を逃してはいけない思いもどこかにあるはず。
アルベルト・ザッケローニ監督時代は主力固定で、毎回のようにベンチから試合を見ていた経験があるからこそ、次のロシアこそはスタメンで戦いたいというのが本音だろう。
日本はすでに最終予選進出が決まったものの、最終予選抽選を考えると、第1シードになれる現在のFIFAランク・アジア2位の座から陥落したくない。今後の戦いを優位に運ぶためにも、シリア戦は手堅く勝って、1位通過を果たすことが肝要だ。そのためのベストピースは清武か、香川か。周囲のメンバー構成も考えて熟考の余地がありそうだ。
(文:元川悦子)
Yahoo!ニュース フットボールチャンネルより
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