~元川悦子Presents~ 欧州で戦うサムライ達の想い
今季ドイツ・ブンデスリーガ開幕から低空飛行が続き、残り5試合となった現時点で5勝3分21敗の勝ち点18でダントツ最下位に沈んでいるハノーファー。ミヒャエル・フロンツェク、トーマス・シャーフ、ダニエル・シュテンデルと、今季だけで3人の指揮官がチームを率いているものの、抜本的な改革は果たせないまま、01-02シーズン以来の2部降格が刻一刻と迫っている状況だ。
そんな中、孤軍奮闘しているのが、エースナンバー10を背負う清武弘嗣。4月8日のヘルタ・ベルリン戦でも卓越した技術と戦術眼を駆使してアルトゥル・ソビエフの先制弾をアシストしたように、彼が数少ない希望の光を放っていると言っても過言ではない。
チームにとっても清武が昨年6月と11月の日本代表活動期間中に右足第5中足骨を骨折し、2度の長期離脱を強いられたのが大きなダメージとなった。「彼がフル稼働できていればチーム状況も違っていた」とドイツ・ビルド紙のハノーファー担当、トビアス・マンズキ記者も語っていたが、それほど絶大な存在感と影響力を誇っている。 その清武がシーズン終盤の残留争いに向けた決意を次のように語ってくれた。
チームの降格危機も「僕は這い上がれると信じている」
ーー11月のカンボジア戦(プノンペン)の後は日本でリハビリしていたそうですが。
「はい。地元の大分でずっとトレーニングをしていました。代表で調子がいい時にケガするもんだっていうのは改めて感じました。チーム(ハノーファー)も苦しい時だったんで、ホントに申し訳ない気持ちが強かったですね。ただ、自分の中では『急いでもしょうがない』という気持ちはありました。もう一回、気持ちと体を見つめ直すいい機会だと捉えていました。自分が焦って早く復帰したとしても、100%の力でプレーしなかったらブンデスリーガは戦えない。だからゆっくり自分の力が100%に戻るまで我慢して、またチームに貢献しようと思っていました」
ーー清武選手の復帰をチームメートもサポーターも待ちに待っていましたよね。
「周りに必要とされているのは分かっていましたし、それをプレッシャーと感じるのではなく、楽しみに思っていました。もっと若い頃の自分だったらプレッシャーを感じてたかもしれないけど、今はこのチームですごくやりがいを感じています。10番つけさせてもらって、みんなの期待も理解しているんで、勝ち点3を取ることに集中したいです」
ーー清武選手は大分トリニータとニュルンベルク時代に降格を経験していますが、残留争いを乗り越えるために必要なものは?
「大分の頃は、自分はそこまで試合に出てなかったんですけど、ニュルンベルクの時は主力で試合に出ている中で落ちてしまった。残留争いをしている時は正直、ビクビクしていたところがあったと思います。その経験を踏まえて、今はもう割り切っていくしかない。ハノーファーは最下位だし、自分たちが思うようなプレーをして、ミスしてもいいし、点を取られても自分たちがやれることをしっかりやれば、僕は悔いが残らないと思う。もちろん勝ち点3は常に狙っていきますし、最後まで巻き返しのチャンスはあるんで、僕がチームを勝たせられるようにやれればいいかなと前向きに考えています」
ーー酒井宏樹選手、山口蛍選手と日本人選手が3人もいるチームだけに、「絶対に落ちてほしくない」という日本のサポーターの思いも強いですが。
「僕はセレッソ(大阪)にいる時から蛍とは一緒にやっていたし、宏樹も含めて俺らは(ロンドン)オリンピック世代だった。そういう選手がドイツの同じチームで3人一緒にプレーできるのはすごい珍しいですし、貴重な経験。『日本人はできる』ってことを見せたいと強く思ってます。ハノーファーは這い上がれると僕は信じてるんで、急ピッチでやっていければいいかなと。とにかく自分にはチームを勝たせるだけの力がほしい。そのために全力でやっていきます」
香川との比較も「それがチームにいい効果をもたらすのであれば」
2月21日のアウグスブルク戦で復帰し、2カ月間コンスタントにピッチに立ち続けている清武。ハノーファーは思うような結果がついてきていないが、彼自身は中盤にいいリズムをもたらし、得点の可能性を広げている。苦境の中で強い責任感とリーダーシップを前面に押し出して戦っている経験は本人にとってもプラスに働いたのだろう。
それを実証したのが、3月末の日本代表2連戦(アフガニスタン・シリア2連戦)だった。アフガニスタン戦では自身3年半ぶりの代表ゴールを含む4得点に絡む目覚ましい働きを披露。シリア戦でも途中出場ながら司令塔としていい味を見せた。「トップ下のスペシャリストとしては香川真司(ドルトムント)より清武の方が上」という声も高まるなど、ここへきて彼の評価は急上昇した。
ーーハノーファーでトップ下に専念していることで、自分自身の感覚も磨かれているのではないですか?
「正直、トップ下ってポジションはすごい難しい。日本代表では下がってプレーして、沢山ボール触ってリズム作ってっていうのが自分がやってる形。代表にはボールを持てる、うまい選手が沢山いる。自分が下がってボールを受けても何もアクションは起こらないんで、なるべく前に残っていてほしいというのが監督の意図だと思う。そこはハノーファーと違うところです。いずれにしても、トップ下というポジションは相手にどこの角度からでも見られてる一番シビアなポジション。難しさはありますけど、やりがいもすごくありますね」
ーーそのポジションを専門にしている分、香川君よりスムーズにトップ下でプレーできる清武君を使うべきという声もあります。
「僕はつねに真司君をリスペクトしてますし、やっぱり(ボルシア・)ドルトムントとハノーファーではレベルの差もあります。真司君がドルトムントで競ってる相手っていうのは一流の選手ばっかりで、ハノーファーの選手と比べるとやっぱり差はある。そこは比べられないと思います。僕がスタメンで出ていて、ドルトムントでは熾烈な戦いがあってっていう状況も比べるところではないので。真司君がやってるようなすごい競争を僕も早く経験してみたい。そういう経験ができるのはすごい幸せなことなので。ただ、代表で真司君といい競争ができて、それがチームにいい効果をもたらすのであれば、すごく重要なことだと思います。自分も結果を求めてやっていきたいです」
ーー今後、代表でコンスタントに出続けるためには、何が必要だと思いますか?
「それは結局は監督が決めることなんで、自分は結果を出し続けるしかないですし、出る試合、出ない試合に関わらず、チームのためにしっかりやることが大切だと思います。サッカーをするうえで何よりも大事なのはチームの結果。個人の思いや結果を前に出すべきじゃないと僕は思います。日本代表がもっと強くなるためには、みんなが一丸とならないといけないし、バラバラより固まった方が絶対に強い。だからこそ、自分はチームのためにやるべきことをするだけかなとは感じます」
ーーそういう話をするのは、やっぱりハノーファーで苦労しているから?
「チームの場合は(選手個々の)国も違うので、やっぱりバラバラになってしまうこともあるとは思いますね(苦笑)。日本人同士なら日本語も通じるし、みんなとコミュニケーションを取れるし、1つになって戦うことができる。最終予選になれば相手も強くなるし、そういう部分がより重要になってくるでしょう。僕自身もそれまでブンデスでしっかり頑張って成長しないといけない。繰り返しになりますけど、ハノーファーは失うものは何もない。自分たちが思い切ってやって落ちるのなら仕方ない。消極的にプレーして落ちたらそっちの方が悔いが残る。1戦1戦全力で悔いのないようにプレーしていくしかない。そういう気持ちで戦います」
いい意味でその割り切りを残り5試合で見せてくれれば、ハノーファーも奇跡が起きるかもしれない。シーズンラストに向けて、清武の一挙手一投足から目が離せない。
Text by 元川 悦子
JSPORTS記事より
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